気候と坐骨神経痛

こんばんは、長岡哲輝です。

一段と寒さが強くなって、朝と日中の気温差が大きくなっています。

患者さんが訴える症状でこの時期、特に多いのが「坐骨神経痛」です。

神経痛を東洋医学では「痺証」といって、“寒邪(冷え)”が経絡に滞っている状態と考えます。

日中気温が上がったときは、”風邪(暖かい風)”により皮膚の?崕理(毛穴)が開きます。

そこに、夜から早朝にかけて気温がぐっと下がると、開いた?崕理から”寒邪(冷え)”が侵入して

坐骨神経痛などの神経痛を発症するのです。

“寒邪”は下半身から侵入することが多いので、しっかりと腰や殿部を温めることが重要です。

また上半身を厚着してしまうと、発汗してさらに?崕理が開くので、

上半身はなるべく薄めにして上着で調節するといいでしょう。

寒暖差が激しい日は、汗をかかない程度の上着に、厚手のタイツや靴下を合わせるのがベストでしょう。

気逆咳

こんにちは、長岡哲輝です。

慢性的な咳が主訴の30代女性。

先週から風邪をひき、咳が増悪したとのこと。

風邪(外感病)の場合、咳、咽頭痛、鼻汁、悪寒などの症状が同時期に起こった場合を指します。

体表観察では、脈が浮いてきたり、ツボが発汗したりする反応を示します。

患者さんの訴えは「咳」のみ、体表観察では脈は沈んでおり、太衝や行間は実の反応。

よく問診を行うと、家庭でのストレスが長引いていて、精神的にとても落ち込んでいるとのこと。

この患者さんの咳は、東洋医学的に「気逆咳」といいます。

長期的なストレスは、気が滞るだけでなく、上に突き上げてしまう「気逆」という状態になります。

突き上げた気は、肺の機能を阻害して「咳」が出現します。

治療は、突き上げた気を引き下げる「行間」というツボに鍼をしました。

置鍼後、咳はピタッと落ち着き、気分もリラックスしたとのこと。

気逆咳に対して鍼治療は、即時的な効果を期待できそうです。

フィジカルアセスメントの重要性

70代男性、坐骨神経痛(大腿後面の痛み)を主訴に来院される。

信頼をおいている他院の先生から「あなたは坐骨神経痛になりますよ。」と言われたあとから、

本当に坐骨神経痛になったとのこと。

坐骨神経痛では、間欠性跛行、SLR陽性、感覚障害、筋力低下、腱反射の消失

などの理学検査や神経学的所見に異常をみとめます。

また、神経痛を疑う場合、痛みの性質は「ピリピリ」「ジンジン」「ズキズキ」など

比較的、鋭い痛みが起こるのが特徴です。

患者さんの訴えは、“なんとなくだるい”

もちろん神経学的、理学検査所見に異常はありません。

軽い筋肉の緊張が“なんとなくだるい”を引き起こしたと考えました。

坐骨神経痛では無いことを説明し、筋の緊張を緩める鍼とストレッチの指導を行いました。

患者さんの病態を、鍼灸師が鑑別するためには、

フィジカルアセスメント(問診、触診、聴診などの客観的な情報)がとても重要です。

時間はかかりますが丁寧に行うことで、適切な「病態把握」と「病状説明」に繋がるのです。

ゲップと期門

こんにちは、長岡哲輝です。

40代 女性

ゲップを主訴に来院中。

数回治療を行っていましたが、一向に改善せず。

体表観察で、右の期門に顕著な圧痛と実の反応あり。

1番鍼で10分置鍼したところ、ぴたっとゲップが止まり、抜針直後に排便もあり。

ゲップが治まっただけでなく、「刺鍼直後にのどや脇腹に響く感じがあった」とのこと。

普段常用しないツボのため、改めてツボの穴性を確認しました。

期門は足厥陰肝経の募穴です。

効能としては、疏肝理気、清熱肝胆、清血熱などですが、

期門は足太陰脾経との交会穴のため、脾胃の病(嘔吐、ゲップ、胃痛)などにも効果があるとの記載がありました。

また、肝経は側腹部を通り、のどをまとっているので

脇腹やのどへの響きがおこることにも納得しました。

つまり、この患者さんのゲップに関しては、

肝の失調(気のめぐりがスムーズでない状態)により

脾胃の働きが低下した“肝胃不和”であると考えられました。

「ゲップに期門」は、今後の治療の選択のひとつとなりました。

本庶佑教授のノーベル賞受賞

こんばんは、長岡哲輝です。

本庶佑教授がノーベル生理学医学賞を受賞され、大きなニュースとなりました。

本庶佑教授は、がん細胞を抑制する免疫細胞にブレーキをかけるPD-1という分子を発見しました。

そのPD-1という免疫にブレーキをかける分子を阻害する薬“オブジーボ”を開発したことが

ノーベル賞の受賞につながりました。

現在がん治療は、手術療法、化学療法、放射線療法の3大療法が主流ですが、

新たに第4の治療として“オブジーボ”をはじめとする免疫療法が非常に注目されています。

免疫療法は、がんの種類を問わず全てのがんに適応と言われていますが、

今の所、一部の肺がんや皮膚がんにのみ適応されています。

今後は、がん患者の遺伝子情報を解析して、どのようながん患者に最も有効なのか研究が進められていくそうです。

2人に1人ががんにかかる時代ですが、がんは「コントロールできる慢性疾患のひとつ」

になる時代もそう遠くはなさそうです。

食欲不振の症例

こんにちは、長岡哲輝です。

今回は、食欲不振に対して、鍼灸治療が効果的であった症例を報告します。

症例 30代女性

主訴 食欲不振、胃もたれ、倦怠感

現病歴 以前から少食であったが、夏バテから食欲不振が増悪。摂取量の低下による体力の衰え、不安感が強い。

胃カメラでは、軽度の胃炎を指摘。

弁証 肝脾不和、脾胃気虚

治療 後渓、公孫、足三里(灸)、自宅でのセルフ灸を指導

経過 3診目から少しずつ食欲が出る。4診目には、食欲十分あり、顔色(気色)が良好になる。

肝脾のバランスを整えることで、数回の治療で食欲が改善し、摂取量が増加してきています。

西洋医学的には、消化管機能を整えることで食欲を改善させると考えられます。

また、鍼灸治療はグレリンという食欲ホルモンの分泌を促し、摂食中枢に働きかけている可能性もあります。

肩こりと後渓 その2

後渓は手太陽小腸経の兪木穴であり、督脈の主治穴です。

臨床経穴学では、督脈を通じさせることで痙攣を抑えたり、太陽経の疏通を促すと記載があります。

北辰会方式では、後渓は心肝の清熱作用、胆経の調節、陽気の調節の作用があるとされています。

心肝気鬱、心肝火旺、肝鬱化火など内熱傾向がある場合に用いると、数回の治療で寛解する例を経験します。

また、食いしばり(TCH)を併発している方には、聴宮や聴会など、

三叉神経領域の刺激を加えるとさらに効果的と思われます。

今後、肩こりの症例を蓄積して、より有効な治療を検討していきたいと思います。

肩こりと後渓

こんにちは、長岡哲輝です。

肩こりを主訴に、当院を受診される患者様は非常に多いです。

肩こりは、頚椎椎間板ヘルニア、頚椎症、胸郭出口症候群などの運動器疾患によりおこるものと、

ストレートネックや不良姿勢、上肢帯のアライメント以上などの機能的な障害によりおこるものがあります。

そのどちらにも、大きく影響しているのがストレスです。

東洋医学的には、「肝鬱気滞」と考えられます。

肩こりに対する治療は、頸肩部の筋緊張部や支配神経に対して鍼治療(鍼通電)を行うのが一般的ですが、

肝鬱気滞がベースにある場合、「後渓」が有効な場合が多くみられます。

つづく・・・

患者との関わり方

こんにちは、長岡哲輝です。

水曜日に定例の院内勉強会を行いました。

今回の症例は、「咳」が主訴の30代女性の方でした。

問診をしていくなかで、持病の再発の不安、家庭内でのストレス、悩みを相談できない・・・

「咳」だけではない、様々な問題点が明らかになりました。

初対面の治療者に、自分の生活環境や家庭内の事情、精神状態について話すのは、

患者様にとって、とても勇気のいることだと思います。

私たちは、どんな治療者であれば病気で悩んでいる方の力になってあげられるのでしょうか。

鍼治療のスキルがあることや、診断力があることだけではなく、

また、「頑張りましょう」と励ましたり、「あなたの病気は〇〇が原因です」と

病気の説明をすることではないと思います。

「苦しんでいる人は、自分の苦しみをわかってくれる人がいるとうれしい」

という小澤竹俊先生の“援助的コミュニケーション”の重要性を改めて感じました。

鍼灸という力を借りて病気を治療していく過程には、「苦痛に寄り添い、支える」という

治療者の姿勢が、自然治癒力を引き出す力になるだろうと信じています。

国際疾病分類(ICD-11)について

こんばんは、長岡哲輝です。

2018年6月にWHOは国際疾病分類の第11版(ICD-11)を公表しました。

そのなかで、我々鍼灸師としてはとても重要な、“伝統医学”の分類が導入されました。

国際疾病分類とは、WHOにより国際的に定められた、疾病の分類や、世界共通のコードのことを指します。

例えば、発達障害でみられる、アスペルガー症候群、自閉症、知的障害などはすべて、

F84 広汎性発達障害という分類に含まれています。

今回、ICD-11に伝統鍼灸の分類が導入されるにあたって、

どれぐらい日本で伝統医学が使用されているかという調査が行われています。(今回は経脈病証のみ)

当院でも、全日本鍼灸学会に情報提供を行い、伝統医学の発展に協力しております。

今後の伝統医学におけるエビデンスや、ビッグデータに関する重要な取り組みと思います。

これが将来の療養費や保険適用の拡大につながる、ひとつのきっかけになります。

伝統医学に関わる鍼灸師として、今後も積極的に協力していきたいです。